先の尖ったポインテッドペンで書く美しいカリグラフィ書体、このような書体はカッパープレート体という名前でよく呼ばれます。銅板に彫られた書体だからそう呼ばれている、という認識は確かに正しいのですが、カッパープレートとは銅板を意味する言葉のようで、これは広義な意味で使われているようです。

このような文字は英語圏でもCooperPlateという名前で紹介されていますが、英語圏の人たちの間でもこのポインテッドカリグラフィの書体について細かく分類できない場合もあるようです。この書体についてもう少し掘り下げていけたら良いなと思い、現段階での個人的な考察を書いていきます。
なぜカッパープレート(=銅板)と呼ばれるようになった?
上述したように、カッパープレート体という書体名は広義な意味で使われています。
まず、もともとはラウンドハンドという書体が存在していました。このラウンドハンドは写本衰退後に印刷技術と一緒に発展してきた書体で、紙の上だけでなく場合によっては印刷の版としても使われていたそうです。

元々は紙にインクで書かれていたラウンドハンド
16世紀頃の書家は羽ペンの先を極端に細いスクエア型や現代のポインテッドニブのような形状にカットしてラウンドハンド書体を書いていたようです。この書体は筆記体です。ペンリフト(※)の回数が少なくサラサラと文字を書いていくのに適しています。
印刷機が誕生してから手書き写本は徐々に衰退していったそうですが書家の需要自体は衰えず、相変わらず鳥の羽根をカットしたペンで文字を書いていたのだと思います。
※ペンリフトとは・・・ペン先を紙から持ち上げる動き。ペンリフトの回数が少ないほど文字を早く書ける。
彫刻家たちがラウンドハンドの形を少しだけ変化させた?
ラウンドハンドは事務書体として書類などを作成するため紙にインクで書かれていたのだと思いますが、同時に印刷版の原画としての役割も持っていて、印刷の版に使う銅板を掘る彫刻職人たちは書家が紙に書いたラウンドハンドを参考に銅板に文字を彫っていたそうです。
その際、銅板を彫る道具(おそらくビュラン)の動きによって、文字の形は紙に書かれていたものよりも少し形が変形していきます。これは紙の上で動かす羽ペンと銅板の上で動かすビュランでは、動き方が違うため文字の形自体も変形したのだと考えられます。
銅板に彫られた文字、カッパープレート書体
この銅板に彫られた文字のことを、カッパープレートスクリプトと誰かが呼び始めたのではないかと推察されます。要はカッパープレート体とは最初は銅板上に彫られた文字に対して付けられた名前なのではという予想です。なので正確には「ラウンドハンド・カッパープレートスタイル」のような名称が適しているような気もします。
銅板上の文字が、今度は紙の上で再現される
ではカッパープレート体=ラウンドハンドなのかというと、もう少し話が続きます。
上述した銅板に彫られた彫刻家の文字が、今度は紙の上で実行される事になります。この形をインクで紙の上に書けないかという事ですね。理由は見た目が美しいからなのか、他に何かあるのか詳細はわかりません。

カッパープレートスタイル文字が生まれた経緯は上で説明した流れと推察されますが、時代が少し進むとスチール製のニブが開発されます。現代では当たり前に見ることができる、ポインテッドニブと呼ばれる先が尖ったペン先の事ですね。

このニブが開発された事で文字を構成するモジュールをより正確に表現できるようになりました。それに伴って、銅板上で彫刻家たちが彫っていたカッパープレートスタイルの文字を、今度は紙にインクで書いてみようという動きが始まります。
エングレーバースクリプト
銅板上の文字を紙の上で表現しようとして生まれた書体、
まとめ:カッパープレート体とは?
まとめると、カッパープレート体とは彫刻家が銅板にビュランで彫ったもの、銅板上で表現された形を指していると推察され、正確にはポインテッドペンで書くカリグラフィのカッパープレートスタイル、という言い方が位置付けとしては良いのかなと思います。
そしてカッパープレートスタイルの文字には以下があるようです
- ラウンドハンド(筆記体/ペンリフト回数が少ない/ある程度早く書ける)
- エングレーバースクリプト(モジュールを丁寧に書いていく/ペンリフト回数が多い/ゆっくりと書く)
- エングロッサースクリプト(モジュールを丁寧に書いていく/ペンリフト回数が多い/ゆっくりと書く)
カッパープレートスタイルの元になったラウンドハンド、そして彫刻家が彫った文字を紙の上で再現したエングレーバースクリプト、最後にエングロッシングに使われたエングロッサースクリプト。
ラウンドハンドには色々種類もあるかもしれませんが、個人的には17・18世紀あたりのイギリスで繁栄したイングリッシュラウンドハンドを把握しておけば良いような気がします。エングレーバースクリプトとエングロッッサースクリプトは文字の形そのものはほぼ同じものと考えて良さそうです。
というわけでカッパープレート体についての考察でした。
参考:https://www.iampeth.com/lesson/demystifying-the-copperplatespencerian-script-enigma







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