
証明書や商用書類などに使われるフォーマル書体 エングロッサースクリプトについての考察

エングロッサースクリプトはアメリカで発展し、商用書類のデザインやアートワークの制作に使われたと言われている書体です。ビジネスライティングのような速記用書体と違い、ペンリフト(ペンを紙から持ちあげる動き)の回数が多く、文字を構成するモジュールをひとつひとつ丁寧に書いていくのが特徴です。
書くというよりも「描く(えがく)」文字というイメージのようです。
エングロッシングというデザイン様式を知るきっかけにもなり、アメリカンペンマンシップにおいて特筆すべき書体のひとつのようです。しかしこの書体は一見しただけではラウンドハンドとの違いが曖昧にも見えます。なぜ別の名前がついているのでしょうか?
エングロッサースクリプトについて考察を入れながらまとめていきます。
エングロッサースクリプトが生まれるまでの流れを考察
16~18世紀あたりのヨーロッパの書家たちは、クイルペン(羽ペン)の先を極端に細いスクエア型もしくは現代のポインテッドニブの先端のような形状にカットしてラウンドハンド スクリプトを書いていました。
このラウンドハンドスクリプトは彫刻家によって(おそらく)ビュランという道具で銅板に転写されていましたが、紙面上のクイルペンと銅板上のビュランの動きは違うため、銅板に掘る際には彫刻家の手によって文字の形が修正されていたようです。そのような理由からこの頃にカッパープレート(銅板)スタイルという言葉が生まれています。


その後、この彫刻家によって銅板上で表現された文字は、スチール製のポインテッドニブやオブリークホルダーの登場によって今度は逆に紙の上で再現しようという試みが始まります。(※1)
クイルペンよりも正確に形を書けるようになったことで文字を構成する要素が明確にモジュール化(※2)され、銅板上の文字を紙の上で再現した書体エングレーバースクリプトが生まれます。
エングレーバースクリプトという書体名は一部のペンマンたちの間で使われたそうですが、最終的にエングロッシングというデザイン様式にこの書体が多用されたことで、エングロッサースクリプトという名前に変化していったのではないか、というのが現段階での考察です。
※1:スチール製のニブがヨーロッパ、アメリカどちらで先に作られたのか現時点の自分は把握できていません。19世紀イギリスのバーミンガムでスチール製ニブの制作が盛んだったようですが、エングレーバースクリプトはアメリカで誕生しており、スチール製ニブどがのようにしてアメリカに持ち込まれたのか、それともアメリカでも製造されていたのか、詳細は現段階では定かではありません。
※2:初期のアメリカでラウンドハンドの標準を作ったと言われるジョン・ジェンキンスのアートオブライティングというテキストの段階で、すでに文字を構成する要素がある程度モジュール化されているようです。ジェンキンス自身もその事について言及しているようですが、実はさらに以前から文字はモジュール化されていたという説もあり、はっきりとした時期は定かではありません。
エングレーバースクリプトについて
上述したエングレーバースクリプトについて、参考になる動画があったので、添付させていただいています。サム・アルファノという方のハンドエングレービング技術です。
現代ではコンプレッサー付きのエングレービングマシンで彫るケースも多いようですが、カッパープレート(銅板)にラウンドハンドを彫っていた当時の職人たちもこのようにして印刷の版を作っていたと推察されます。そしてこの彫刻文字が紙の上で再現されたものがエングレーバースクリプトであると考察されます。
ビュラン(タガネ?)の動きは文字を構成するモジュールをひとつずつ丁寧に彫っています。この動きもおそらくはスチール製ニブによって、紙の上で同じように実行されていると考えて良いのではないかと思います。
エングロッシングとは?

エングロッシングとは、精密な絵柄や装飾にカリグラフィ文字を組み合わせたデザイン様式を意味していると推察されます。
これは中世ヨーロッパ時代の写本装飾技術がアメリカに持ち込まれた時に、その美術様式をアメリカ独自の目線で模倣&変化されたものであると考えられます。神や聖典を讃えるための中世時代の装飾写本と違い、商業用サービスとして作られたエングロッシングは人間の偉業を讃えるシーンで活躍したと言われています。
19世紀後半から20世紀初頭のアメリカでは、ペンマンたちの仕事が黄金期を迎えたと言われていて、アルファベット文字を観賞用に装飾したアートやデザインなど多様な表現が生まれています。そういった制作物やアートワークの総称にエングロッシングと言う言葉は使われ、またそれらを行う人たちのことをエングロッサーアーティストと表現されていたようです。
エングロッサーの仕事は、主に決議書や証明書、卒業証書などの制作が多かったそうですが、広告デザインや企業のレターヘッド(文書の上方に添えられるデザイン)、その他アートワークにも使われていたと考察されます。多数のカリグラフィ書体や装飾技術を習得する必要があり、一流のエングロッサーになるには15年ほどの時間がかかる例もあったと言われているそうです。
このようなエングロッサーの仕事は1930年頃の世界恐慌の影響によって徐々に失われ、ペンマンたちの黄金期も衰退に向かう流れになったと言われています。
文字の考察
Capital / 大文字





Small Letter / 小文字



・・・加筆途中・・・