
ローマンキャピタル体やイタリック体みたいな書体って先が平らな幅ペン(スクエアニブ)で書かれていますよね。
この幅ペンは、まだ印刷機というものがなかった頃、本を1ページ1ページ手書きで書き写していた時代に使われていたものなんですね。
ちなみに手書きで書き写して作られる本は「写本」と言います。

写本
印刷技術の発達と産業革命によって色々なことが機械化されていった19世紀のイギリスでは、写本が需要を失って技術者もほとんどいなくなっていたので、カリグラフィーはポインテッドペンで書くビジネスライティング書体のみが生き残っていたみたいです。
今日僕らがよく使っている幅ペンと呼ばれる先が平らなニブは、この頃あんまり使われてなかったんですね。
じゃあなんで21世紀、しかも日本というアジアに生きる僕たちが幅ペンを使った写本時代のカリグラフィーの事を知ったり学んだりできるのかというと、このエドワード・ジョンストンという人の功績が大きい、という風に言われてるんですね。
カリグラフィーを学ぶ上で知っておいた良い人物のひとりだと思うのでジョンストンについて分かっていることをまとめてみました。
エドワード・ジョンストンってどんな人なんでしょうか??
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病弱で学校に通わなかった
のちに写本カリグラフィーを復活させたジョンストンですが、子供の頃は体が弱かったそうです。なので学校など通わずに自宅で学習してたみたいですね。
こういう他人と何か違うことをする人って、幼少期は学校で集団生活をしていない場合が多い印象です。
ピーターラビットの作者ビアトリクス・ポターなんかもそうですね。ウィリアムモリスもそうですが、当時の比較的 裕福な家に生まれた子供の教育というのは集団教育をさせない、という傾向がありますね。
その方が人とは違う教養を身につけて最終的に裕福になる、ということなんですかね。ジョンストンの家庭が裕福だったかどうかは分かりませんが・・・。
幼少の頃から写本カリグラフィーに興味があった

若い頃から文字を書くのが好きで写本にも興味があった
ジョンストンは子供の頃から文字を書くことが好きで、16歳くらいには写本の装飾やカリグラフィーに興味を持ってよく見ていたそうです。
でも当時は写本カリグラフィーはすでに衰退していて、周りには誰も幅ペンを使ったカリグラフィーを知っている人がいなかったそうです。
ウィリアムモリスなどがアーツアンドクラフツ運動を通して写本カリグラフィーの研究などしていたそうですが、その頃はまだジョンストンはそんなこと知らないので、完全にひとりで独学で写本カリグラフィーの学習を始めたそうです。
すごいですね・・・・汗
ジョンストンは何をやるにも、自分がやってることは何なのか?どういう意味を持っているのか?ということを追求せずにはいられない性格だったそうです。
ロンドンの美術学校でカリグラフィーを教えるようになる

ロンドン中央美術工芸学校
最初は一人でもくもくと学習していたそうですが、そのうちロンドン中央美術工芸学校の校長に紹介されるようになったそうです。
その校長先生はジョンストンの才能を見抜き、写本の研究をするように勧め、シドニー・カーライル・コッカレルという人に指導させたそう。
コッカレルって聞くと誰?という感じであまり有名ではないですね・・・。僕もよく知らないですが、とにかくこのコッカレルという人がジョンストンに「カロリン体」という書体を重点的に研究するように勧めたそうです。

カロリン体
カロリン体といえば、ずいぶん昔(8世紀頃)に作られた書体。一番最初に作られた小文字アルファベットですね。
このカロリン体という書体は、のちにゴシック体、ヒューマニスト体、イタリック体などに変化した書体で、カリグラフィー書体の中でも重要な位置付けの書体です。
これを研究しなさいとジョンストンに教えたコッカレルもすごいですよね。ここでチンプンカンプンなこと言う人だったら、今日こういう感じにはなってなかったかもしれませんね・・・。
ジョンストンは7年間ほどかけて写本を研究したそうです。
7年、長いですね。その間の生活費とかどうしてたんでしょうか??学校が負担してくれるんですかね?

写真はイメージ
とにかく長い時間をかけてカロリン体を中心に研究を重ねた末に、研究結果を元にロンドン中央美術工芸学校でカリグラフィーの講師として教鞭をとることになったそうです。
1度は途絶えた写本カリグラフィーがここから復活する流れになったんですね。
ジョンストンの実績・活動
エドワード・ジョンストンはカリグラフィーを教えただけでなく、新しいモダンカリグラフィーの開発をしています。
カリグラフィー書体の歴史はプラット・ロジャー・スペンサーが生み出したスペンサリアン書体で止まっていたので、そこからさらにカリグラフィーの歴史を進めた、ということになりますね。
ファウンデーショナル体の開発

ファウンデーショナル体
エドワード・ジョンストンの最も有名な功績のひとつにファウンデーショナル体の開発があります。
この書体は上でも出てきた「カロリン体」をもとにして作られています。
長年、写本を研究したジョンストンが、1000年ほど前に作られたカロリン体を元にして、19世紀当時の人たちにも読みやすく、そして使いやすい仕様で新しく開発した書体と言えそうです。
この書体は現在の印刷活字やPCに入っている英小文字フォントの元となっていることも多く、21世紀現在の僕らの目にも親しみやすい仕様になっています。
普段意識していなくても、おそらく大体の人が英語の小文字を思い浮かべると出てくるイメージは、元はジョンストンが作り出したものと言って過言ではないのはないでしょうか。
ゴシサイズド・イタリック体の開発
この書体は個人的にそこまで詳しくないのですが(汗)、ゴシック体とイタリック体を掛け合わせたような書体のようですね。
これもジョンストンが考案した書体と言われています。
ゴシック体もイタリック体も元々はカロリン体が変化して生まれた書体なので、長年カロリン体を研究していたジョンストンだからこそ作れた書体だと言えそうです。
アンダーグラウンド・サンセリフ体の開発

アンダーグラウンド・サンセリフ体で作られたロンドン地下鉄のロゴ

ロンドン地下鉄
ジョンストンは前ロンドン交通局から依頼を受けてリトグラフポスターで使用するフォントを開発しています。これもジョンストンの有名な功績として知られていますね。
簡単に言うと地下鉄のポスターみたいなものですかね。この書体はアンダーグラウンド・サンセリフ書体と言われていて、当時ポスターが発表された時は話題になったそうです。
サンセリフとはセリフのない書体のことです。セリフっていうのは文字の先端についてるヒゲみたいなものですね。
この書体に影響されたタイポグラファーたちが、様々な書体を開発したと言われています。

サンセリフ書体
「フーツラ」や「ギル・サン」といったような書体です。フーツラはルイヴィトンのロゴに使用されていることで有名な書体ですね。

ルイヴィトンのロゴに使用されているフーツラフォント
まとめ
というわけでエドワード・ジョンストンについてまとめてみました。
時代的にはウィリアムモリスなんかと同じような時期に活動してた人みたいですね。歳は少し若そうですが。
この19世紀イギリスというのは機械化の波に立ち向かった人たちがいて、ジョンストンもその一人だと思います。
普段何気なく習ったり、youtubeやinstagramなんかで綺麗だな〜と見ているカリグラフィーもこういう人たちの尽力によって伝えられてきたんですね。
よければご参考に、それでは。
参考:書字法・装飾法・文字造形(エドワード・ジョンストン著)